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札幌高等裁判所 昭和47年(ネ)252号 判決

控訴人(申請人) 川本次郎 外一二名

被控訴人(被申請人) 東邦交通株式会社

補助参加人 日本私鉄総連合北海道地方労働組合東邦交通支部

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。控訴人らがそれぞれ被控訴人の従業員たる地位にあることを仮りに定める。被控訴人は、控訴人らが被控訴人の使用する事業所に立入つて就労し、または組合活動をすることを妨害してはならない。被控訴人は、控訴人らに対して別紙(一)記載の金員および昭和四七年三月から本案判決確定に至るまで毎月末日限り別紙(二)の計欄記載の金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

一  被控訴人が、資本金四三〇〇万円、バス約一七五台、従業員約六〇〇名をもつて、釧路支庁管内一円において一般乗合旅客自動車運送事業および一般貸切旅客自動車運送事業を営む会社であること、控訴人らがその主張の年月日にそれぞれ被控訴人の従業員となり、かつ、その頃被控訴人の従業員をもつて組織する被控訴人補助参加人組合(以下特別の場合を除き単に組合という)の組合員となつたこと、被控訴人が昭和四五年一〇月九日控訴人川本次郎に対し、同月一〇日控訴人館治吉、同沼倉章治、同赤石登、同戸館信太郎、同館正夫、同松本正伝、同大屋敬二、同山崎悦子、同井関陽子、同菅原扶美子に対し、昭和四六年一月六日控訴人東理栄子、同小磯信夫に対し、それぞれ解雇の意思表示をしたこと、被控訴人と組合との間に労働協約があり、その第四条に、被控訴人は組合を脱退し、または組合から除名された従業員を直ちに解雇する旨のいわゆるユニオンシヨツプ条項が規定されていることは、いずれも当事者間に争いがない。

二  控訴人川本次郎について

同控訴人の前記解雇が組合から除名されたことにもとづくものであることは当事者間に争いがない。

同控訴人は、右除名が手続上瑕疵がありかつ除名理由が存在しないことに因り無効であるから、解雇も無効であると主張する。

しかしながら、組合との間にユニオンシヨツプ協定が存在する場合、使用者としては組合から組合員を除名した旨手続的に正当な通知があれば、右協定にもとづきその者を解雇すべき義務があり、使用者において右除名が重大な瑕疵により明かに無効であることを知りながらなすものでない限り、除名がなんらかの瑕疵によつて無効であつたとしても、右義務の履行としてなす解雇は有効と解すべきである。何故ならば、本来シヨツプ制なるものは組合自身の統制力強化にその目的があり、組合が内部規律に従つて組合員を除名するか否かはその自主的権能によるものであるから、使用者としてこれに容かい調査することはできず、また、事後的審査により除名が無効で、その結果解雇が無効であるとした場合、それによる責任を使用者において負うべき合理的理由を見出すことができないからである。

しかして、本件において右控訴人に対する除名が有効か無効かの点はさておき、少くとも被控訴人が右除名が無効であることを知りながら敢えて本件解雇の意思表示をしたものを認めるべき疎明はなんら存在せず、かえつて証人片岡正雄の証言によると、昭和四五年一〇月九日、組合の執行委員長吉田十四夫ら執行部が被控訴人会社の労務課長張江某のもとに文書をもつて右控訴人を解雇するよう申入れに来た際、除名理由および所定の手続を終たうえ決定されたものである旨の説明を受け、被控訴人としては右除名が実体上も手続上もなんら瑕疵がないものと信じて本件解雇の意思表示をなしたものであることが一応認められる。

そうだとするならば、除名の有効無効について判断するまでもなく、本件解雇は有効であるといわなければならず、結局右控訴人の本件仮処分申請は被保全権利の疎明がないことに帰する。

三  その余の控訴人について

当裁判所としては、その余の控訴人に対する本件解雇の意思表示は、いずれも有効と判断する。その理由は、原判決三九枚目裏五行目から四四枚目裏一〇行目までのとおりであるから、これを引用する。

四  したがつて、控訴人らの本件仮処分申請はいずれも失当であり、これらを却下した原判決は相当で、本件各控訴は理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九五条、第九三条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺一雄 小川昭二郎 山之内一夫)

(別紙(一)、(二)省略)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

申請人らの申請を、いずれも却下する。

訴訟費用は、申請人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 申請人ら

1 申請人らが、それぞれ被申請人の従業員たる地位にあることを仮に定める。

2 被申請人は、申請人らが、被申請人の使用する事業場に立ち入つて就労し、または、組合活動をすることを妨害してはならない。

3 被申請人は、申請人らに対して、別紙(一)記載の金員および昭和四七年三月以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り別紙(二)の「計」欄記載の金員を、それぞれ支払え。

との判決

二 被申請人

主文第一項同旨の判決

第二申請の理由

一 被申請人は、資本金四、五〇〇万円、バス約一七五台、従業員約六〇〇名をもつて、釧路支庁管内一円において一般乗合旅客自動車運送事業および一般貸切旅客自動車運送事業を営む会社である。

申請人らは、左記の如く、被申請人の従業員となり、かつ、そのころ被申請人の従業員をもつて組織する補助参加人組合(以下、特別の場合を除き、組合という。)の組合員となつたものである。

氏名

入社年月日

昭和・年・月・日

職種

労働組合役職歴

(昭和・年・月・日)

川本次郎

二九、一一、二六

運転手

三一、五、 執行委員

三三、五、 副委員長

三五、五、から四五、三まで、執行委員長(専従)

舘治吉

三九、二、一

同右

四二、五、 職場幹事

四三、五、 青年婦人対策部長

四四、五、 財政部長

四五、三から四五、一〇まで、懲罰委員(書記)

川村洋一

三三、四、一三

同右

四〇、五、 職場委員

四一、五、 調査部長

四三、五から四五、一〇まで、組織部長

沼倉章治

三三、三、四

同右

三九、五、 厚生部長

四一、五、 教宣部長

四三、五から四五、一〇まで、調査部長

脇常實

三三、四、一三

同右

三三、五、 職場委員

三四、五、 執行委員

三九、五から四五、三まで、書記長

赤石登

三六、六、一五

同右

四四、五から四五、一〇まで、職場委員

戸舘信太郎

三五、五、一一

同右

四三、五から四四、五まで、職場委員

舘正夫

四一、四、一三

同右

四三、五から四五、一〇まで、懲罰委員

松本正傳

三八、四、二五

同右

四〇、五、 職場委員

四五、五から一〇まで、懲罰委員

大屋敬二

三七、三、一二

技工

山崎悦子

四〇、六、一四

車掌

四一、五 職場委員

四五、五 青年婦人部副部長

四五、七 職場幹事

井関陽子

三八、三、二一

同右

四四、七 代議員

菅原扶美子

四〇、三、二二

同右

四三、五 職場委員

代議員

青年婦人対策部

会計監査

東理栄子

四四、二、六

同右

芳賀金壽

三五、五、一〇

運転手

三八、五 執行委員、文化部長

四〇、五 職場委員

四一、五 同右

小磯信夫

三七、四、三〇

技工

三八、五から四三、五まで、職場委員

四五、五 代議員

二 被申請人は、昭和四五年一〇月九日申請人川本に対し、同月一〇日申請人舘治吉(以下、治吉という。)、同川村、同赤石、同沼倉、同戸舘、同舘正夫(以下正夫という。)、同脇、同松本、同大屋、同山崎、同井関、同菅原(以下、申請人治吉外一一名という。)に対し、昭和四六年一月六日申請人芳賀、同小磯、同東理(以下申請人芳賀外二名という。)に対し、それぞれ解雇の意思表示をした。

三 被申請人は、右申請人川本および申請人治吉外一一名に対する解雇の理由として、被申請人と組合との間に労働協約があり、その第四条に、被申請人は、組合を脱退しまたは組合から除名された従業員を直ちに解雇する旨のいわゆるユニオンシヨツプ条項(以下シヨツプ協定という。)があるところ、組合が右申請人らを除名した上被申請人に対しその旨の通知をなしたので、右申請人らに対し前記解雇の意思表示をなしたのである。しかし、右申請人らに対する組合の除名は、次に述べる理由により無効であるから、右シヨツプ協定に基づいてなした右各解雇の意思表示は、いずれも無効である。

1 除名手続の瑕疵

組合が同申請人らを除名した手続には、次の如き重大な瑕疵がある。

(一) 申請人川本について

(1) 組合執行委員長吉田十四夫は、昭和四五年一〇月四日、組合懲罰委員会に対し、申請人川本の除名を求める旨の提訴をし、同委員会は、申請人川本に弁明の機会を与えることなく、また提訴された事実の真偽を調査することなく、翌五日申請人川本を権利停止三年間とする旨決定した。

(2) さらに、組合規約第一九、二〇条によれば、代議員大会の日時場所および重要議案は五日前に告示する旨定められているにもかゝわらず、五日前に招集の告示をせず、かつ、申請人川本除名についての議題の告示をすることなく、同月六日に釧路市所在の商工会館で代議員大会が開催され、前記懲罰委員会の処分を取り消し、申請人川本を除名する旨の決議をした。しかも、申請人川本、同芳賀、同脇は右大会において代議員として投票権を有していたにもかかわらず、右決議をなすに際し、投票権を行使することを阻止された。また、組合規約上、除名処分と異り権利停止処分は、懲罰委員会の決定で直ちにその効力が発生するのであるから、代議員大会の決議をもつてしても右処分をくつがえすことはできないものである。

(3) さらに、同月七、八日の両日行われた申請人川本の除名の可否についての直接無記名投票は、組合規約第二二条の、組合員の除名は、大会で決定しなければならない旨の規定に反し、単に投票箱を各職場に持参して各組合員に投票させたものであり、しかも投票の対象となる付議事項は、日本私鉄労働組合総連合北海道地方労働組合(以下道本部という。)の指示による処分案の賛否についてとあるのみで、申請人川本の除名の賛否を議題とする旨明確に付議されておらず、投票用紙、投票箱を提訴者たる組合執行部が保管するという、手続の公正を疑わせる方法で行われたものである。

(二) 申請人治吉外一一名について

(1) 申請人らを含む九〇名の組合員は、同月八日、前記のごとき組合の道本部の指導に藉口した高圧的非民主的態度を不満とし、新しい労働組合を結成することとし、名称を東邦交通労働組合(以下、新組合という。)とし、委員長申請人治吉およびその外の役員を選出し、組合規約、運動方針を定めた上、翌九日、被申請人および組合に対し、その旨通知したところ、組合は、同月一〇日、申請人治吉外一一名の除名について組合大会において決定することなく、単に組合の執行委員会において、同申請人らの除名を決定し、そのころその旨同申請人らに通知した。

(2) もつとも、右除名については、同月一二日に組合の代議員大会が開かれ、次いで同月一三、一四日に投票が行われ、形式上は前記除名につき事後承認がなされているが、右承認によつて前記除名処分の瑕疵は治癒されるものではなく、右代議員大会および投票は申請人川本に対する場合と同様の瑕疵がある。

2 除名理由の不存在

(一) 申請人川本について

本件における申請人川本に対する除名理由は、別紙(三)記載のとおりであるが、いずれも理由がない。すなわち、

(1) 同申請人は、昭和三八年五月に二〇〇万円の使途不明金を作つたとあるが、これらは組合のために使用したものであり、しかも、既に七年前に三年間の権利停止処分を受けており、その後、申請人川本は組合の執行委員長に選出され、組合員の信任を受けていたのであるから、現在再び除名の理由として取り上げることは、一事不再理および二重危険禁止の法理に反する。

(2) 同申請人は、大屋敬二らの名義を無断で使用し、或いは支払能力をはるかにこえた多額の金員を、しかも組合を経由することなく、北海道労働金庫(以下、労金という。)から借り入れ、また、被申請人会社から生活費を借り入れていたとあるが、これらはいずれも大屋敬二らの承諾を得て行つたものであり、また被申請人からの借り入れは、賃金の前借りをしたものに過ぎず、しかも、いずれも返済ずみである。

さらに、これら借り入れの件は、申請人川本と労金、または被申請人との間の問題に過ぎず、組合内部規制に関する問題ではなく、組合の干渉するべきものではないから、そもそも除名の理由とすることはできない。

(3) 同申請人は、渉外費を仮名を用いて不当に支出したとあるが、その事実はまつたくない。

(4) 同申請人は、日本私鉄総連合北海道地方労働組合の声明書に関連して、道本部オルグ責任者高平亀治を告訴したことはあるが、これは、同申請人が自己の名誉を保持するために、当然の権利としてなしたものである。すなわち、道本部は、昭和四五年九月九日ごろ、「声明書」と題する書面を組合掲示板に掲示したが、右声明書中には前記(1)ないし(3)の如き全く事実無根ないし理由のないことを記載し、さらに、申請人川本は、生活が破綻しているとか、或いは自宅に女性書記を間借りさせ、常識では考えられない生活を行つている等、私事にわたる事項を、しかも故意に事実を歪曲して記載し、申請人川本の名誉を毀損したからである。

(二) 申請人治吉外一一名について

本件における右申請人らに対する除名理由は、要するに、前記の新組合の結成が、懲罰規定第三条にいう「組合の統制を乱した」ことに該当するというのである。

しかしながら、すべての労働者は、積極的団結権を有しており、憲法上、組合結成の自由を有するものであつて、かかる団結権は、組合規約および懲罰規定に優先して効力を有するものであるから、新組合の設立行為は、懲罰規定第三条にいう「組合の統制を乱した」行為に該当するものではない。

3 シヨツプ協定の失効

申請人治吉外一一名および申請人芳賀外二名は、前記の如く昭和四五年一〇月八日、組合および道本部の非民主的、一方的な指導体制を不満として、組合を集団的に脱退し、新組合を結成したものであり、しかも新組合員数は百数十名にのぼり、同年一一月二七日には第六一七回北海道地方労働委員会公益委員会議において労働組合法第二条および第五条第二項に適合する組合として認定され、昭和四六年七月九日には被申請人と労働協約を締結していることからみて、同申請人らに対し解雇の意思表示のなされた当時、組合は分裂し、シヨツプ協定の目的とする組合の統一的基盤は失われていたから、その効力は右申請人らには及ばない。

4 不当労働行為

申請人芳賀外二名は、新組合の組合員として組合活動をしていたものであるが、被申請人は昭和四五年一二月二八日ごろ、右申請人らに対し、「昭和四六年一月四日までに新組合を脱退し、かつ組合に復帰すること、もし右復帰に応じない場合、直ちに解雇する。」旨の通告をなし、昭和四六年一月六日解雇の意思表示をしたものである。

ところで、右の如き解雇は、右申請人らが、労働組合法上、適式に設立された新組合に加入しているのに対し、右組合から脱退しないことおよび補助参加人組合に加入しないことを理由としてなされたものであり、労働組合法第七条第一項に違反する不当労働行為である。

四 保全の必要性

全申請人らの昭和四六年三月末日までの賃金および手当は別紙(四)記載のとおりであり、同年四月一日以降のそれは別紙(二)記載のとおりであるところ、被申請人は、右申請人らに対する解雇の意思表示をした後、申請人らが、就労し、或いは組合活動をすることを妨害し、毎月末日の賃金支給日においてもこれを支払わないので、右状態が引続くときは賃金を唯一の生計の資とする労働者である申請人らの生活は破綻せざるをえない。

もつとも、申請人川本を除くその余の申請人らは、昭和四七年三月三日から就労し、同年一月二一日以降の賃金の支払を受けているが、これは北海道地方労働委員会の命令によるもので、本件訴訟の確定に至るまでの暫定的な措置である。

従つて、申請人らが追つて提起する本案訴訟の判決が確定するまでの間、仮に、申請人らについて被申請人の従業員たる地位を定め、就労、組合活動の妨害を禁じ、各解雇の意思表示のなされた日から昭和四七年二月末日までの未払賃金、諸手当合計額として別紙(一)記載の各金員および同年三月以降の賃金として別紙(二)「計」欄記載の各金員の支払いを受ける必要がある。

第三被申請人の答弁

一 申請理由一の事実中、次の事実を除くその余の事実は認める。

申請人川本が執行委員長であつたのは昭和三五年から昭和三八年一一月二四日まで、および昭和三九年六月一一日から昭和四五年一〇月までであり、その余の組合役職歴は不知。申請人治吉の財政部長就任時期およびその余の組合役職歴は不知。申請人川村がその主張のころ調査部長、組織部長であつたことは否認し、その余の組合役職歴は不知。

その余の申請人らの組合役職歴は不知。

二 申請理由二の事実は認める。

三 申請理由三冒頭の事実中前段は認め、後段は争う。同1ないし4の主張は争い、事実関係についての答弁は、第四に記載するとおりである。

四 申請理由四中、仮処分の必要性あるとの主張は争う。申請人川本を除くその余の申請人らは、その主張する如く就労し、賃金の支払を受けているので、本件仮処分の緊急性、必要性は現存しない。

第四被申請人および補助参加人の主張

一 解雇の有効性

1 除名の効力と解雇の効力について

労使間にユニオン・シヨツプ協定が存在し、組合が組合員を除名したとき、使用者は、組合からの除名通知によつて被除名者を解雇する義務を負担する。もし、使用者が除名された者を解雇しなければ、組合から解雇義務の履行を求められ、さらに、協約違反としての争議行為に訴えられることも予想される。

一方、除名は組合の組織維持のための内部的規制の問題であり、使用者が立入つた調査をすることは困難であり、また、組合介入の問題ともなり得るから、使用者は、いかなる意味でも除名の瑕疵の有無や効力に対する審査をする権利、義務を有しないのである。

従つて、仮に除名事由とされた事実が存在せず、或いは除名手続が不当で除名が無効であるとしても、組合の自主独立を尊重する建前から解雇の効力に影響を及ぼさないものというべきである。

元来、使用者は、法による解雇制限ないし労働協約によつて規制されている場合を除き、解雇の自由を持つているものである。そして、シヨツプ協定の目的が組合の内部的統制力の強化にあり、そのため組合が手続的にも独自にその組合員の資格の得喪を定め自主的にその運営をしている以上、使用者は組合から手続的に正当な除名あるいは脱退の通知があれば被除名者を解雇すれば足り、これによつて生ずる危険はすべて被除名者と組合との間で決せられるべきものである。

従つて、仮に申請人らに対する除名が無効であつても、本件解雇の効力に影響はない。

2 除名手続の瑕疵について

(一) 申請人川本について

(1) 懲罰委員会の調査は専ら申請人川本の弁解を中心に検討されたものであり、同申請人の主張する如き瑕疵はなかつた。

(2) 昭和四五年一〇月六日の大会について、この大会の招集は一〇月二日の定期大会において既に議題と共に決まつていた。すなわち、道本部からの申請人川本らに対する処分勧告に基づき、一〇月四、五日懲罰委員会に付議され、同月六日に代議員大会を開催し、さらにこの大会で除名が決まれば同月七、八日の両日に全組合員の直接無記名投票による賛否をとることに決議されていたのであり、さらに定期大会の翌日である一〇月三日に議題として「道本部勧告に基づく処罰に関する件」として告示もしている。

この大会は一〇月二日の大会で同月六日に開催することに決まつているのであるから本来さらに告示を要するか疑問である上、五日前の告示はできないことが明白であるから、同月三日に告示したことで十分である。

また、申請人川本は弁明を聞くべく待機を命ぜられていたにもかかわらず席をはずして行方不明となつてしまつたもので、自ら弁明の機会を放棄した上、投票にも加わらなかつたのである。

もつとも、除名の賛否を問う議決は、当該除名問題について組合員の支配的意思を具現化する方法であるから、その総意を最も正確に把握するという観点から考えるべきである。従つて、その者を組合から除かなければ組合の統制が保ち得ないとして団体の維持、強化という面から組合の意思を決定せんとする場合、組合員として権利資格を有するとはいえ、団結を乱したかどで矢面にいる特別の利害関係人をこの意思決定に加えることは、団体意思を不明確ならしめるから、認めるべきではない。決議につき特別の利害関係を有するものは表決に参加し得ないという一般法原則はここでも妥当する。従つて、申請人川本が投票権を与えられなかつたとしても決議の効力に関係はない。

いわんや右代議員大会の表決の結果は除名に賛成したもの三八票、反対したもの一四票、白紙一票であつて、申請人らが投票権を与えられなかつたと称する三人が加わつて反対票を投じたとしてもその結果に何ら消長をきたすものでないから、除名も無効とはならない。

また、組合は、一〇月二日の定期大会において既に道本部からの申請人川本に対する除名勧告により、これを取り上げるための組合規約に基づく手続として、その提訴理由の真偽を調査させ、懲罰規定第三条に規定する事由に該当するか否かを審理させるべく懲罰委員会に提訴し、同委員会は一〇月四、五の二日間開催すること、その報告に基づき一〇月六日に招集する臨時代議員大会に付議すること、この大会の決議の上さらに一〇月七、八日の両日に全組合員の賛否を問う直接無記名投票を行うことに決められていたもので、いわばこの一連の手続が申請人川本に対する処分の手続であつて、その間の一手続が申請人に対する処分手続ではない。すなわち、この全手続の終了をまつて処分が確定するものであつて、処分未確定の場合、一事不再理や二重危険の問題を容れる余地はない。

ところで、組合の懲罰委員会は一〇月六日の臨時大会において、初めて申請人川本次郎を権利停止三年とするとの、懲罰規定第四条に規定する権利停止の処分とする旨報告したため、出席の代議員および執行部からも同規定第三条該当の有無をめぐり、同委員会に質疑、異議の申立が続出した。そこで、同委員会は再度審議した結果、右処分を白紙撤回するのでこの代議員大会で再度審議決定して欲しいとの結論を出し、右大会ではこの問題を議題として審議した上申請人川本を除名するとの決議を行つたのである。

従つて、右大会の決議はこのような事情で懲罰委員会に委託された処分権による処分ならびに大会としての除名処分承認の決議というべきである。

よつて懲罰委員会の当初なした権利停止の処分で申請人川本の処分が決まつたとの主張は当らず、また懲罰規定第三条、第四条に照らしても申請人川本についての同委員会に対する提訴理由は除名事由であつて、権利停止に関するものではない。

(3) 昭和四五年一〇月七、八日の無記名投票について

組合の昭和四四年七月五日開催の第一九回定期大会によつて決議された改正組合規約第一九条によると、大会は職場より七名に一名の割合で選出された代議員をもつて構成することになつている。例外として全員大会を招集することもできることになつているが、通常全組合員が一堂に会して大会を開くことは不可能なので、常態としては予定していない。これは右組合の組合員の職場の特殊性に由来するのである。従つて右規約改正前も、組合員全員の賛否を問うことを要する場合は、直接無記名投票に全員が参加し得るよう大会の場で行うことをせず、投票箱を持ち廻りでなしていたのである。右規約改正により大会には組合員全員が出席していないのであるから、この席で組合員全員の賛否を問うことは予定されていないので、組合員全員の過半数の意思を問う方法は大会の外で組合員の賛否が確実に問い得る方法によれば足りるのである。

従つて、右組合が組合員全員の意思を問う方法として行つた一〇月七、八日の直接無記名投票は正当なものであり、大会の席上賛否を問う必要があるとの申請人らの主張は実態を理解しないか規約の解釈を誤つたものといわざるを得ない。

(二) 申請人治吉外一一名について

(1) 被申請人が右申請人らを解雇したのは組合との間のユニオンシヨツプ協定によるものであるが、組合のなした除名によるものではなく、脱退通知によるものである。すなわち、被申請人は一〇月九日組合から右申請人らが同日付を以つて右組合から脱退したので直ちに被申請人との間の労働協約第四条に基づき解雇されたいとの協約義務の履行を求める通知を受けたので、直ちに被申請人は役員会を開催し、さらに組合から強い申し入れがある場合には解雇するとの決定をなしていたところ、翌一〇日組合から早急な処置を求められるとともに、履行なきときは実力行使も辞さない旨の通告を受けるに至つて、同日解雇の意思表示をなしたのである。

従つて、仮にその後に組合のなした除名手続に瑕疵があつたとしても、本件解雇とはなんら関係がない。

(2) なお、組合は右申請人らをその組合脱退後除名処分にしているが、右除名処分は脱退によつて組合員資格を放棄した者の処置に関するもので、実質的にはなんら権利義務の変動に影響のない名誉的制裁に過ぎないもので、組合規約に予定する組合員の身分喪失を伴う意味での除名そのものではない。従つて執行委員会において除名の決定がなされ、それがさらに代議員大会で決議され、かつそれが組合員の過半数以上の賛成を得たのは、右申請人らの脱退行為が組合の容認するところでないことおよび右申請人らが脱退によつて組合員の身分を喪失していることを確認したに過ぎないのであるから、規約上の手続を要求されるものではない。

3 申請人らの除名理由の存在

(一) 申請人川本について

(1) 同申請人は、昭和三八年に二〇〇万円余にも及ぶ使途不明金を作つて組合と組合員に混乱と不信感を与えたことにより、既に三年間の権利停止処分を受けており、その後、信任を受けて執行委員長をも勤めているからこれを理由に処分をするのは一事不再理、二重危険禁止の法理に反すると主張するが、組合は右事実をいわば前科として、かゝる経歴の持主であるから通常の者より一層執行委員長、支部責任者として組合員の信頼に答えるべく、その言動に反省配慮を要したという意味で加重事由として挙げているのであつて、独立に責任原因としてこれを再度処分理由となしているものではない。

(2) 同申請人は右の如き前歴を持つ者であるから、当然組合の財政処理、自身の金銭問題については通常以上の配慮をして信頼の回復を計るべく努力し、いやしくも組合員の疑惑を招く行為に出るべきではないのに、労金からの借り入れに関して執行委員長の立場を悪用し、組合および組合員に迷惑をかけた。

イ 労金からの生活資金の借り入れ制度は借受人の組合員が直接労金から借り受けるのではなく、労金に対する債務者は組合自体であり、執行委員長が組合の代表者となつて労金に対して手形を振り出して借り受け、さらにその金を組合が組合員に貸与することになつている。返済方法は、組合員が借り受けた金額を三六回に分割し、被申請人から支払を受ける給与の中から組合に直接支払つて貰つて弁済に充て、組合は受取つた元利を弁済金として労金に支払うのである。

そして、組合が労金から借り受けできる金額は組合の労金に対する預金残高によつてその枠が決められている。すなわち組合預金が一種の担保となつている。

また、組合員が借り受ける金額は組合員の支払能力の関係もあつて、最高限度が金三〇万円となつており、組合員の誰かが組合に対する借入金の元利の支払を怠れば、組合は労金にその弁済ができず、その場合労金は組合に対して次の貸出しをしないことになつている。

そして右組合員に対するこの制度に基づく貸出しは、弁済についての右手続のため、組合帳簿にすべて記載し、この事務は組合の書記が行うことになつていた。但し、手形の発行については前記の如く執行委員長が振出した。

ロ ところで、同申請人は大屋敬二、沼倉章治、赤石登、館治吉などの名義を使つて自己の借り入れを行つたため、最高限度額の金三〇万円を大きく逸脱し、昭和四四年一二月から昭和四五年一月分の支払ができなかつた。

しかも、外形上は借り入れの事実が存在しないようにみせかけるため、借り入れに際し組合帳簿に記載せず、そのため弁済についても組合を通してはできないので、労金に組合が弁済しているかの如く見せかけて、自分が直接労金に対して弁済をして来ていたもので、執行委員長以外の者にとつては不可能な借り入れ方法であつた。

ハ この借入金の仕組みから明らかなように、同申請人が仮に大屋敬二らの承諾を得たとしても、前記の如く、他人の名義を借りて、かつ、最高限度額を越えて労金からの借り入れを行うことは、他の組合員の借り入れに影響を及ぼすので許されない。しかも、同申請人は、前記の如く弁済ができなくなり、現実に組合に被害を与え、かつ、組合員に混乱と不信感を与えた。

また、同申請人は、前記の如く許されない自己の借金のために執行委員長として組合の手形を振出して組合に債務を負担させたので、これは正に背任的行為と評せざるを得ない。帳簿に記載せず、秘密裡に直接労金に弁済していたのは、これの隠蔽行為である。

(3) さらに、同申請人は右事実を組合書記や財政委員会等で指摘されるとこれを否定し、計画的にあくまでもすべてを隠蔽しようとした。同申請人が単なる組合員ではなく、重責ある執行委員長の職にあつたにもかかわらず、その非を指摘されても何ら反省することなく、かえつてこれを否定し、理由にもならない弁解をするのは、人間としての品性すら疑わしめるものである。

(4) 同申請人は組合の執行委員長として組合業務に専従する者であつたから、被申請人に対しては、むしろ厳正な態度に終止し、いやしくも会社との関係を云々されるが如きことのないよう注意するべきであるのに、積極的に会社から金銭を借り受ける等、いわば会社に借りを作るが如き事態をつくり出して、組合員に多大の疑惑と不信感を与えた。これは組合の幹部としては許されない背信行為といわざるを得ない。

同申請人は会社から借りた金は返済したからよいとするが、返せば借りた事実が帳消しになるという意味ならば、そこにはまつたく反省の色がなく、組合員に与えた影響を考えていない。

(5) 同申請人は前記の如き前歴があり、組合財政処理については再び組合員の疑惑を招くが如き行為があつてはならないものであるにもかゝわらず、架空の渉外費を相当額相当の回数に亘つて仮名を用いて支出している。これは、正しく背任罪を構成する背任行為そのものであつて、この事実のみでも組合員としての資格はないというべきである。

(6) 同申請人は、独身でありながら独身の女性書記と同一家屋に居住しているが、これが私事であろうとまたいかなる事情があろうとも、執行委員長として組合の指導的立場にある、いわば組合にとつては公人ともいうべき者のとるべき行為ではない。まして、執行委員長と書記という関係がある以上、これは個人に止まらず、組合自体の品位に関する重大問題である。組合の懲罰規定第三条には、組合員の除名事由として、「重大な決議事項に反し組織の破壊及び組合の統制を乱した者又は乱そうとした者」と定められているが、同申請人川本の前記の各行為は、いずれも右の事由に該当するもので、同申請人に対する処分としては正に除名以外には考えられないところである。

(二) 申請人治吉外一一名について

右申請人らに対する除名処分は、前記の如き意味しか持たないものであるが、組合が右処分をしたのには十分な理由がある。すなわち、右申請人らは、信奉する申請人川本が除名されるや、これを擁立支援せんとの目的だけのため、新組合を結成したとして組合の切り崩しに狂奔し始めたのであるから、これは組合にとつて組織上重大なる統制違反であり、除名事由にあたることは論をまたないところである。

4 ユニオン・シヨツプ協定適用の正当性

申請人治吉外一一名および申請人芳賀外二名らの新組合結成により、組合が分裂し、ユニオン・シヨツプ条項の目的とする組合の統一的基盤が失われたことはない。

(一) 右申請人らは、昭和四五年一〇月八日新組合を結成したとして、一〇月一〇日付内容証明郵便で役員氏名のみを表示した通知を被申請人に対して行つた。

すなわち、右申請人らは組合が一〇月六日の大会において申請人川本の除名を決議し、同月七、八日の両日組合員の賛否を問う投票をなし、その開票後申請人川本の除名が確定されるや八日の午後一〇時頃に至つて組合結成と称する集会を開き、被申請人に新組合を結成したとして通知をなしたのである。

(二) 右申請人らは組合が分裂したと称するが、分裂の事実はなく、単に右申請人らの集団脱退があつたに過ぎない。

すなわち、分裂とはその主体自体が分解することにより分裂した二箇の集団間には同一性がないものであり、脱退とは組合という主体は変化せず単に構成員である組合員が分離して行くことである。従つて、集団的離脱と分裂との区別は、分裂によらなければ労働組合としての存立または運営が不可能な状態における集団離脱か否かにあるものというべきである。そして、分裂は、離脱者のみの行為によつて残留者の意思に反してその集団の同一性をも失わしめるものであるからその認定は相当厳格に解すべきもので、労働組合が機能を喪失し事実上の分裂に陥つているときにのみ認められるべきものである。労働組合員が労働組合の方針に不満であるという理由でそれを離脱するのは単に多数決に服することを好まないということであつて、いかに集団的離脱であつても脱退とする他はない。

もし脱退者が労働組合の方針に行き過ぎがあると思うなら、組合内部で討議を重ねてその方針を改めさせる努力を続けるべきであり、大衆討議の機会を利用して多数の賛成を獲得する運動を展開するべきで、かゝる努力をつくさず組合脱退の挙に出ることは団結の法理に照らして許し難い行為である。仮に主義主張を異にする場合であつても、労働組合から離脱して組合の決定と相容れない行動に出ることは組合に対する純然たる裏切り行為であるから、少数派は大衆討議の機会を利用してその主義主張を組合員一般に公表し、公正な検討と批判を要請することによつて組合員の賛成を得るよう努力するべきである。

また、労働組合の統一的基盤が失われたか否かは単に脱退した組合員の数によつて決せられるものではなく、その脱退に相当の理由があるか否かによつて決するべきものである。たしかに少数者の脱退といえどもその脱退に相当の理由があり、かつ設立された新組合が自主的でしかも合理的な存在理由をもつ場合はその団結権を尊重しなければならないであろう。

しかし他面従業員の圧倒的多数を組織して従業員全体を統制するだけの力量を備える自主的組合が厳存するのに、これとは別個に少数者の組合を結成する場合、その少数者組合が独立していることの積極的合理性がないと判断されるかぎり、多数者組合のシヨツプ協定の適用を否定することはできない。

ところが、本件においては、組合の内部に特に対立抗争する問題があつたことはなく、組合の方針について相容れない主義主張が存在して組合としての行動が失われたという事実もない。ただ、申請人川本の不正問題の責任を追求する組合員の意思が少数の脱退者の意に反したというに止まるもので、脱退しなければならない必然性も、また合理的或いは相当な理由もまつたくない。申請人らの主張する新組合は単に除名された申請人川本の同調者がこの除名を不満としてこれを擁立保持するために結成されたもので、専ら組合の団結権を侵害する目的に出たものというべく、組合が被申請人と協約しているシヨツプ協定の効力を阻害せんとするものである。従つてそこには何ら補助参加人組合と異る自己の存立を主張する合理的指導理念もなければ主義主張もなく、あるのは単に少数の意見が通らなかつた不満だけである。これは新組合なるものの成立過程、新役員選出経緯、規約をみても歴然としているもので、このようにして生れた脱落者集団は団結権の法理に照らして反価値的なものとして法の保護を受けるに値いせず、いまだ労働組合と呼ぶにもふさわしくないものである。

従つて右申請人らが脱退した後仮に新組合を結成したとしても、これを分裂とみることはできず、従来の組合は何らその同一性を失うことなく、その存立の統一的基盤をそのまま保持し続けているのである。また、被申請人は従来通り何等の異議なく組合のために従業員全員のチエツクオフをなしているので、右申請人らの他に右申請人らが結成したという組合の組合員が存在するのかどうかすら不明であるが、仮に相当数存在するとしても何ら組合の統一的基盤に変化がない以上ユニオン・シヨツプ協定の効力に全く関係がない。

二 解雇手続

1 被申請人は、昭和四五年一〇月九日、組合から前記のとおり申請人川本を除名し、その余の申請人らは組合を脱退したので、直ちにシヨツプ協定に基づき、申請人らの解雇手続をとるようにとの通知を受けた。

2 そこで、被申請人は、申請人川本に対して右同日、申請人治吉外一一名に対して同月一〇日、申請人芳賀外二名に対して昭和四六年一月六日、それぞれ解雇の意思表示をすると同時に、申請人川本および申請人治吉外一一名については平均賃金三〇日分の金員から右申請人らに対する被申請人の貸付金等を差し引いた別紙(五)記載の金額を、申請人芳賀外二名については平均賃金三〇日分の解雇予告手当を提供したが、受領を拒否されたので、そのころ右金員を釧路地方法務局に弁済のため供託した。

第五被申請人の主張に対する答弁

被申請人主張の第四の二の事実は認める。

第六証拠〈省略〉

理由

一 申請人らが、その主張の如く、被申請人の従業員および組合の組合員になつたこと、被申請人と組合との間の労働協約第四条に「……会社は……組合を脱退し、または組合から除名された従業員は直ちに解雇する。」という規定の存すること、被申請人が、申請人らに対し、その主張の日時にそれぞれ解雇の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

二 除名の無効、ユニオン・シヨツプ協定の失効と解雇の効力

雇用契約において雇用の期間が定められていないとき、現行法は、当事者が何時でも解約権を行使し得る旨定め(民法第六二七条第一項)、その制限される場合について特別の規定(労働基準法第一九、二〇、二一条等)を設けている。従つて、使用者は、特別の規定や労働協約、労働契約等によつて解雇権が制限されている場合および解雇権の行使が不当労働行為、権利の濫用等の事由により無効となる場合を除き、何時でも有効に解雇権を行使し得ると解さざるを得ないから、解雇権の行使に解雇の理由は本来不要であり、或る理由に基づいて解雇権が行使された場合でも、その理由の存否は解雇の効力と関係がない。そして、解雇は労働者の生活を直接脅やかすものであるから、労働者としては、労働組合の力により使用者との間の労働協約に解雇権の制限についての条項を定めるとか、或いは使用者にとつて正当な事由に基づく解雇権の行使に対しても、団体交渉や争議行為によつて適法に対抗する方法を有しているのである。解雇権の発生或いは行使の要件に例えば正当事由を要するとの見解は、現行法上その根拠がなく、また解雇の正当事由はその性質上裁判所による判断に親しまないから、実定法上の明確な根拠がない限り、右要件を必要とすると解釈すべきではない。たゞ、解雇の労働者の生活に及ぼす影響が極めて大きいことから、何の理由或いは必要もなく、かつ使用者がそれを知り、或いは容易に知り得るのに知らないで解雇権を行使した場合は、権利の濫用として、無効になることがあり得るのである。

使用者と労働組合との間にユニオン・シヨツプ協定が存在し、組合が組合員に対して除名の手続を行つて、その旨使用者に通知したときは、使用者に被除名者を解雇するべき組合に対する債務が発生する。この場合、使用者の解雇権の行使は右債務の履行として行われるが、右債務の履行ということは被除名者との関係においては先に述べた意味での解雇権の行使の理由に他ならないから、仮に除名手続が無効のため或いはユニオン・シヨツプ協定の効力が被除名者に対して及ばないため右債務が発生しなかつたとしても、解雇の効力に影響を及ぼすものではない。

従つて、雇用期間の定めのないことが明らかに当事者間に争いのない本件においては、申請人川本および同治吉外一一名に対する組合の除名手続が無効であることならびに申請人治吉外一一名および同芳賀外二名に対しシヨツプ協定の効力が及ばないことを理由として被申請人の同申請人らに対する解雇の意思表示が無効であるとの主張は、主張自体理由がない。

三 解雇権の濫用について

1 申請人らの右主張には先に述べた意味での解雇権の濫用による解雇の意思表示の無効の主張が含まれていると解されるので、以下これについて判断する。

労働組合は団結の確保のためその組織を統制する権能を有するから、その自主的判断に基づいて組合員を除名することができるのであり、また、ユニオン・シヨツプ協定は組合の除名の権能と使用者の解雇権の結合により組合の団結の強化をはかるものである。

従つて、組合による組合員の除名はその手続、理由に重大な瑕疵、欠缺があるときにのみ司法審査により無効とされるのであり、また、ユニオン・シヨツプ協定はその目的とする組合の統一的基盤が完全に失われた場合にのみ被除名者に対して効力が及ばないとされるのである。そして、労働組合との間にユニオン・シヨツプ協定を締結している使用者は、組合から組合員を除名した旨の通知を受けた場合、被除名者に対する除名およびシヨツプ協定の効力について調査、判断する権利も義務も有せず、また、調査、判断しようとしても、ことがらの性質上多くの場合困難であり、さらに、もし被除名者を解雇しなければ、組合から争議行為に訴えられることさえあり得るのである。それ故、除名の無効或いは、シヨツプ協定の失効により解雇権の行使が権利の濫用として無効となるためには、使用者が前記の如き無効原因事実の存在を知り、かつ、無効であると判断していること、或いは容易に右事実の存在を知り、かつ無効と判断できるのにそれをなさないことを要すると解すべきである。そこで、これらの要件の存否を本件について検討する。

2 成立に争いのない疎甲第一号証および疎乙第二号証の二(原本の存在と成立についても争いがない。)によれば、組合員の処罰に関し、組合規約、懲罰委員会規定および懲罰規定には次の規定のあることが認められる。

(組合規約)

第十五条 処罰には次のものがある。

警告、譴責、権利の停止、離籍勧告除名

第十三条 組合員で組合の宣言、綱領、規約及び決議に反し組合の統制を乱し又は乱そうとした者は、別に定める懲罰規定により処罰される。

第十四条 組合員の処罰に関する決議については懲罰委員会で該当者の充分な弁明をきかないで之を行う事は出来ない。

処罰に対して不服の時は、懲罰委員会に異議の申立をする事が出来る。

第十九条 大会は組合の最高決議機関である。

大会には定期大会と臨時大会とが有る。

………

大会は各職場より七名に一名の割で選出された代議員を以つて構成する。

但し全員大会にも出来る。

第二十二条 次の事項は大会で決定しなければならない。

………

一、組合員の除名

前条の場合、全組合員の過半数以上の賛成を得なければならない。

第二十五条 次の事項については全組合員の直接無記名投票に依り決定する。

………

一、組合員の除名

但し第一項の役員改選を除く他の事項については全組合員の直接無記名投票による過半数以上の支持を得なければならない。

(懲罰委員会規定)

第五条 提訴者は執行委員会がこれを行う。

………

第六条 懲罰委員会は被提訴者を喚問し事実の真偽をたしかめなければならない。

(懲罰規定)

第三条 処罰の適要

左の場合、懲罰委員会の議を経て除名又は離籍勧告処分を受ける。

一、重大な決議事項に反し組織の破壊及び組合の統制を乱した者、又は乱そうとした者及この行為に参加したもの。この場合除名処分については大会の決議を得なければならない。

3 申請人川本について

(一) 成立に争いのない疎甲第一ないし六号証、同第一〇ないし一三号証、同第一七、一八号証、同第二六号証、疎乙第一号証、同第二号証の一、二、同第一二号証、同第二〇号証、同第三一号証の一、二、同第三三、第三四号証の各一ないし三、同第三五号証、同第五九号証、同第六〇号証の一、二(疎甲第三ないし六号証、疎乙第一号証、同第二号証の一、二、同第二七号証、同第三四号証の一ないし三については、原本の存在と成立についても争いがない)証人松下富司の証言によつて真正に成立したと認める疎乙第五、第八号証、証人阿部清の証言によつて真正に成立したと認める疎乙第五三、第五四号証、右証人らおよび証人片岡正雄、同古田嘉宏、同高平亀治、同小島秀治、同佐藤正明、同鈴木道子、同山田日出作、同古屋一彦、同佐藤善一、同石岡淳一の各証言、証人工藤敏男、同小斉芳満、同小磯信夫の各証言の一部、申請人脇常實、同沼倉章治、同川村洋一、同山崎悦子、同赤石登、同舘正夫、同戸舘信太郎、同芳賀金壽、同舘治吉、同川本次郎各尋問の結果の各一部および弁論の全趣旨を総合すれば、被申請人が同申請人に対し前記解雇の意思表示をするに至るまでの経過について、次の事実を認めることができる。

(1) 申請人川本が組合の執行委員長の地位にあつた昭和四五年二月ごろ、労金が右組合の貸付金返済の延滞を理由に同組合に対する同月分の生活資金の貸出しを拒絶するという事態が生じ右貸付金の債務者は、現実に借受金を使用した個々の組合員ではなく、組合であるため、組合は財政委員会を設置し、組合財政の調査を行つたところ、申請人川本、同脇、同川村、同沼倉、同治吉らの執行委員が、労金から他組合員の名義或いは組合員以外の者の名義を使用し、組合会計を通さずに貸付限度額をはるかに超過する多額の借り入れを行い、その返済を延滞していたことや、申請人脇、同川村が日本私鉄総連合北海道地方労働組合の定期大会に出席した際、道本部から組合に対して支払われた還付金を組合会計に納入せずに費消していたことが明らかにされるに至り、執行委員の中から申請人川本らの責任を追求して辞任する者が出たゝめ、同年三月に結局申請人川本ら執行委員全員が任期途中で辞任することとなつた。

(2) そこで、組合の選挙管理委員会は、同年三月二一日各職場に「昭和四四年度臨時組合役員改選」という告示をなし、同月二七日投票を行つた結果、二〇票の差で申請人川本が敗れ、吉田十四夫が委員長に選出された。

ところが、右役員の任期は前執行委員の任期の残存期間であるのか、翌年の定期大会までであるのかの疑義が生じ、同年四月一七日の第四八回臨時大会(代議員大会)において議論がなされたが、採決の結果吉田十四夫外役員(以下吉田執行部という。)の任期は昭和四六年五月までとする決議が成立した。

(3) 吉田執行部は、就任後道本部役員を加えた財政整理委員会を設けて労金債務の整理に着手し、同年四月下旬までに生活資金、住宅資金について現実の債務者と債務額を確定し、返済方法を定め、公正証書を作成したが、その金額は申請人川本について二七五万円、同脇について一六〇万円、同川村については二九八万円となつた。

(4) 同年八月八日、組合の吉野書記が、吉田執行部の承認を受けず、また申請人川村に借用証も作成させることなく、同申請人の労金に対する前記返済金七月分を、組合の会計から立替払いし、しかもこれを組合の伝票、帳簿に記載していなかつたことが発覚し、同月二六日、執行委員会は、同書記に退職を勧告したが応じなかつたため、同日同書記を解雇した。

ところが、同月三一日開催された組合の幹事会において、申請人川村から緊急動議として、右吉野書記解雇問題が持ち出され、同執行部が右吉野書記に対する解雇を撤回しない限り一切の審議に応じないと主張したため紛糾し、結局予定の議題は審議されずに散会となつたが、吉田委員長は右幹事会において、「財政執行の上で責任がもてないので執行委員会は大会終了後に総辞職する。」旨の発言をなした。

もつとも、執行委員会は右委員長の発言等について協議した結果、総辞職する旨の意思表示を撤回することに決し、「第四回幹事会の報告」と題する同年九月一日付書面中にその旨記載し、組合の掲示板に掲示した。

(5) 次いで同月三日開催された第二〇回定期大会(代議員大会)においても、開会冒頭、申請人川本、同脇、同川村らが緊急動議として吉野解雇問題を提案したため、吉野書記を解雇した吉田執行部の措置を支持するか否かについて採決がなされ、賛成二六票、反対二七票という僅差で同執行部の措置は否決されたところ、退場者が続出し、右大会は流会となつた。なお右大会において、同執行部は総辞職する旨の意思が表明なされたが、道本部からの留任勧告を受けて、再び辞意を撤回することとなり、翌四日付でその経過を記載した「組合員各位に訴える」と題する書面が掲示された。

また、この間に、吉田十四夫組合執行委員長名で、或いは道本部オルグ高平亀治副委員長名で、それぞれ、申請人川本と吉野書記との関係、同申請人らの労金からの不正な借り入れ、労金に対する返済金への組合費の不正流用など、同申請人らの不正行為を弾劾する経過報告および声明書が職場に掲示され、これに対して、申請人川本、同脇、同川村、同芳賀はこれを事実無根として、同月一一日ごろ釧路警察署に高平亀治を告訴するに至り、申請人川本派とその反対派の対立は一層激しくなつて行つた。

(6) 同月二六日、吉田委員長は次のような議題で同年一〇月二日第二〇回定期大会(全員大会)を開催する旨の告示を、組合の掲示板に掲示した。

(一) 四十四年度一般経過報告

………

(七) 組合清浄化について

(7) 同年一〇月二日に開催された第二〇回定期大会において「組合清浄化について」との議題について、道本部執行委員長古田嘉宏が資料を添えて提案理由を説明し、申請人川本らの前記不正行為、告訴による組合混乱の責任を指摘し、右申請人らの行為を組織の破壊を意図するものであり、同人らに反省の色が見られないとして、懲罰規定第三条により申請人川本を除名、同脇、同川村を権利停止五年、同芳賀を権利停止一年の各統制処分に付すのが相当である旨提案した。そして、右大会においては、右処分について組合規約上の手続をふむため執行委員会からなされた提案、すなわち、同月四、五日の両日懲罰委員会、同月六日代議員大会を開催して右処分を討議し、代議員大会で申請人川本除名の決議が成立した場合には右除名について同月七、八日の二日間、全組合員による投票に付する旨の日程を承認し、その後、申請人川本が右提案に対する弁明をなし、続いて同脇らが弁明しようとしたが、議場は右川本の弁明のころから怒号が乱れとぶようになり、遂には実力でマイクを奪いあう等の混乱が生じ、騒然とした中で右大会は閉会となつた。

なお、右大会においては、前記の如き執行部の辞意表明およびその撤回に対し異議を述べ、執行部は辞職しているとの主張をする者も、前記大会開催は告示議題が不明確等の理由で違法であると主張する者も、まつたくなかつた。

(8) 申請人治吉らからなる懲罰委員会は、同月四、五日の両日にわたつて開かれ、まず四日に、申請人川本、同脇、同川村、同芳賀らに道本部の提訴理由書を見せて釈明を求めたところ、同申請人らは全部虚偽である旨反論したが、争点が多岐にわたつたため、同委員会は翌日迄に書面による弁明をすることを求め、翌日申請人脇を除く右申請人らが持参した書面について若干説明を聞いただけでそれ以上の調査はせず、申請人川本を権利停止三年、同脇、同川村を同二年六月、同芳賀を同六月の処分にする旨決定した。

(9) 同月六日、第四九回臨時大会(代議員大会)が開かれて、前記懲罰委員会の決定が議題に上程された。そして、被処分者である申請人川本らを退場させた上で審議がなされたが、右決定に対し激しい攻撃が集中し、返答に窮した懲罰委員会はその場で協議した結果、右決定を白紙に戻して代議員大会の決定に委ね、懲罰委員全員は責任をとつて辞任する旨提案し、その旨承認された。次いで右大会は、改めて前記古田道本部執行委員長の提案内容について申請人川本、同脇、同芳賀の欠席のまゝ賛否を問い、四一票対一四票をもつて提案どおり申請人川本を除名、同脇、同川村を権利停止五年、同芳賀を同一年の統制処分に付する旨の決議が成立した。

(10) 同月七、八日の両日にわたつて、選挙管理委員会の管理の下に右統制処分について全組合員による無記名投票が実施され、投票用紙に除名処分を可とするものは○印、不可とするものは×印を付すという形式で、各職場において投票が行われた。その結果、八日午後七時、組合員数四六六名中、投票数四四四票、うち賛成三一〇票、反対一二四票、白紙九票、無効一票をもつて、申請人川本の除名処分が支持された。

(11) そして吉田執行委員長、山田副委員長、阿部書記長等組合執行部は被申請人会社の労務課長張江某に対し、同月九日午前九時ごろ、第四九回臨時大会および支部規約第二五条に基づき全組合の直接無記名投票の結果、昭和四五年一〇月八日付をもつて申請人川本に対し除名処分を決定したので、労働協約第四条によつて解雇するよう通告する旨の記載のある文書を手交した。

その際、右労務課長は組合執行部から、その除名理由が前記のとおりであつて、その手続も大会の決議に従い、懲罰委員会、代議員大会等を経て、さらに全員の無記名投票によつて決定した旨の説明を受けた。そこで被申請人は組合のなした除名処分は実体上も手続上も瑕疵がないものと信じて、申請人川本を解雇することに決し、同日前記のとおり右申請人に対して解雇の意思表示をするに至つた。

(12) なお、申請人川本は、組合の執行委員長として在職中、二〇〇万円に及ぶ使途不明金を出したことを理由に、昭和三八年一〇月、権利停止三年の統制処分に付されたが、翌三九年四月、臨時大会において右処分の解除が提案され、右処分は解除する旨の決議がなされた。しかし、組合規約中には、権利停止処分に付せられた者が、懲罰委員会に対する異議申立以外の方法によつてその処分を解除されることができる旨の規定は存在しない。

以上の認定に反する疎甲第一八号証の記載部分、証人工藤敏男、同小斉芳満、同小磯信夫の各証言の各一部、申請人脇常實、同沼倉章治、同川村洋一、同山崎悦子、同赤石登、同舘正夫、同戸舘信太郎、同芳賀金壽、同舘治吉、同川本次郎各尋問の結果の各一部はにわかに措信しがたく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(二) (一)に認定した事実と2に認定した組合規約等の規定とを対比し、かつ、シヨツプ協定が存在する場合の組合からの除名が被除名者の解雇に連ることを考慮すれば、第四九回臨時大会における申請人川本に対する除名処分に関する議決は、一〇月四、五日の懲罰委員会における審議が極めて不十分であるうえに、改めて懲罰委員会の審議を経なければならないのにこれを経ていないことならびに被処分者である同申請人、代議員である申請人脇、同芳賀に審議および投票の機会を与えていない点で重大な瑕疵があるから無効と認めるのが相当である。なお、大会が組合の最高決議機関であることおよび同申請人らの反対票を加えても票決の結果が変らないことも右認定を妨げるものではなく、その他に、除名の手続および理由について、右処分を無効とするべき重大な事由は認められない。

しかし、前記の如く被申請人は右無効事由の存在を知らなかつたのであり、また、右手続の瑕疵の存在およびその効果は使用者である被申請人にとつて容易に調査、判断し得ることではないから、申請人川本の除名無効を原因とする解雇権濫用の主張は採用できない。

4 申請人治吉外一一名について

成立に争いのない疎乙第二七号証、証人片岡正雄の証言によつて真正に成立したと認める疎乙第一七、二六号証および3(一)に前掲の各証拠によれば、昭和四五年一〇月九日午前九時三〇分ごろ、右申請人ら一二名を含む一六名から、組合に対し脱退する旨の届が提出され、吉田執行部は脱退届を撤回するよう説得したが右申請人らが応じなかつたので、同日一二時三〇分ごろ、吉田執行委員長、山田副委員長、阿部書記長らが被申請人労務部長片岡正雄に対し右申請人らは組合を脱退したから直ちに労働協約第四条に基づき解雇されたいとの通告書を手交したこと、翌一〇日、申請人治吉外一一名を除くその余の四名の脱退者は、脱退届を撤回したので、右四名については解雇要求の通告を撤回する旨を被申請人に申し入れたこと、同日、組合執行委員会は申請人ら一二名を除名する旨決議し、被申請人に対し、右一二名について再度、組合より除名した者の解雇「の件について先に申し入れたところであるが、この件の措置について早急に処理しない場合は、実力行使も辞さない」旨通告した結果、被申請人は、同日一〇時三〇分ごろ右申請人らの就業を禁止したのち、同日午後二時三〇分ごろ、同申請人ら一二名について解雇する旨告示し、個別に解雇通告をしたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、被申請人が同申請人ら一二名を解雇したのは、同申請人らが組合を脱退したことに基づくものであり、執行委員会のなした除名の決議は、その権限外の決議であるうえに、同申請人らの脱退後に行われたものであるから、組合内部における単なる事実上の制裁措置に過ぎないと認められる。従つて、同申請人らに対する右除名の決議は無効であるが、これにより同申請人らに対する解雇権の行使が権利の濫用となる余地はない。

5 申請人治吉外一一名および申請人芳賀外二名について

(一) 原本の存在と成立に争いのない疎甲第八号証、成立に争いのない疎乙第五七、五八号証、証人河越政一、同久保一夫の各証言および4に前掲の各証拠を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 申請人川本およびその支持者達は、前記のごとき経過で、右川本の組合員としての地位が危くなつてきた昭和四五年九月下旬ごろから、右川本を守るためには分派活動も止むを得ないと考え、その方策を練りつゝあつた。そのうち、右川本の除名処分は避けられないものとなつた同年一〇月初めごろ、新組合結成のための会場探しや、ビラ、たれ幕の作製等に着手し、同月八日夕刻、右川本に対する除名処分の賛否投票が完了して処分の確定をみた直後、組合員のうち四〇余名が釧路市内川北町川北会館に集合し、同夜新組合結成大会を開催した。

(2) 右新組合結成大会において、組合名を東邦交通労働組合とし、執行委員長に申請人治吉、副委員長に橋本義夫、書記長に申請人大屋、組織部長に申請人正夫、財政部長に久保一夫、青婦部長に申請人山崎、調査部長に申請人井関、教宣部長に申請人赤石、会計監査に申請人菅原、小斉芳満を選出し、運動方針、組合規約等を定めた。しかしながら、その運動方針の柱は「組織拡大」であつて他にめぼしいものはなく、組合規約等も補助参加人組合のそれを、組合名、組合事務所の設置場所等を訂正しただけで、他はまつたく右組合と同様であつた。

(3) 申請人治吉外一一名および申請人芳賀、橋本義夫、久保一夫、小斉芳満は、翌九日補助参加人組合に対し、脱退届を出し、被申請人に対しても同日新組合を結成し、その役員は前記のとおりであること、組合員氏名については後日提出する旨を通知した。

しかし、副委員長橋本義夫、会計監査小斉芳満、財政部長久保一夫は組合の説得によつて脱退届を撤回し、また申請人芳賀については脱退および破壊活動に参加していないことが判明した結果、補助参加人組合の組合員たることを認められたので、前記のとおり解雇要求対象者から除外され、申請人治吉外一一名が解雇されるところとなつた。

(4) 昭和四五年一〇月一〇日現在において、補助参加人組合の組合員数は、四五三名であり、新組合への加入届に署名押印したものは一三〇名余にのぼつたが、補助参加人組合を脱退したのは申請人治吉外一一名だけであつた。

(5) 次いで、同年一一月二三日、申請人芳賀を代表として合計七六名の組合員が組合に対して脱退届を郵便で提出し、翌二四日、申請人芳賀を代表として一一名の組合員が同じく脱退届を郵便で提出した。

しかし、組合の説得活動が行われた結果、申請人芳賀を含めた全員が脱退届を撤回するに至り、右通告者全員を含めた四五三名が、同年一二月分の組合費のチエツク・オフを受けている。

(6) 同年一一月二七日、新組合は、北海道地方労働委員会の資格審査により、労働組合法第二条および第五条第二項に適合する旨決定された。

(7) 申請人芳賀外二名は、同年一二月中旬ごろ補助参加人組合を脱退したゝめ、組合は被申請人に対し右申請人らの解雇を要求し、直ちにこれを履行しない場合は実力行使に訴える旨通告した。被申請人は、同月下旬、右申請人らに脱退届撤回の意思の有無を質し、その際、補助参加人組合に復帰しないとシヨツプ協定により解雇しなければならないから復帰したらどうかという趣旨のことを述べ、期限付で回答を求めたが、回答がなかつたゝめ、前記のように昭和四六年一月六日右申請人らに対し解雇の意思表示をなした。

(8) 昭和四七年三月現在の新組合の組合員数は、同申請人らを除き、一八名である。

(9) 新組合を結成せんとした申請人らと、補助参加人組合の執行部との間には、使用者に対する闘争方針、あるいはイデオロギー的な対立関係は存在しない。

以上の事実が認められ、右認定の趣旨に反する疎甲第一八号証の記載の一部、証人小斉芳満、同小磯信夫の証言の一部および申請人脇常實、同沼倉章治、同川村洋一、同山崎悦子、同赤石登、同舘正夫、同戸舘信太郎、同芳賀金壽、同舘治吉、同川本次郎各尋問の結果の一部はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) 右認定の事実に前記3(一)(1)ないし(12)で認定した事実を考えあわせれば、申請人らの集団的脱退および新組合の結成は、申請人川本およびその支持者が同申請人の擁護を目的としたものに過ぎず、いわば補助参加人組合の団結権を侵害することを目的としたものであり、また前認定のような脱退者数の変動、現在の新組合の加入者数等からみても、その組合としての自主性が疑わしく、その結成によりシヨツプ協定の目的とする補助参加人組合の統一的基盤が失われたとは到底認めることができない。

従つて、その他の点を判断するまでもなく、同申請人らのシヨツプ協定失効を理由とする解雇権濫用の主張も採用できない。

四 申請人芳賀外二名に対する不当労働行為について

右申請人らを解雇するに至つた経緯は前記のとおりであり、かつ、シヨツプ協定の効力は同申請人らに対しても及んでいたのであるから、被申請人の同申請人らに対する解雇を不当労働行為の目的に出たものと認めることはできず、成立に争いのない乙第六〇号証の一も右認定を妨げるものではない。従つて、右申請人らに対する解雇が不当労働行為として無効であるとの主張も採用できない。

五 予告手当について

被申請人が、申請人らに解雇の意思表示をすると同時に、申請人川本および申請人治吉外一一名については平均賃金三〇日分の金員から右申請人らに対する被申請人の貸付金等を差し引いた別紙(五)記載の金額を、申請人芳賀外二名については平均賃金三〇日分の解雇予告手当を提供したうえ、弁済のため供託したことについては当事者間に争いがない。

ところで、解雇予告手当は厳密な意味では賃金ではないが、次の就職までの労働者の生活を支えるためのものであるから賃金に準ずるものであつて、通貨で労働者本人に全額支払うことを要し、労働者に対する債権と相殺することは許されない。従つて、右申請人川本および申請人治吉外一一名に対する解雇予告手当の支払いは効力がないものといわざるを得ないが、被申請人が即時解雇を固執する趣旨でないことは、本件解雇に至る経過から明らかであるから、前記解雇の意思表示は、労働基準法二〇条一項所定の予告期間を経過した時からその効力を生じるところ(最判昭三五・三・一一集一四・三・四〇三参照)、右期間が本件口頭弁論終結時前に経過していることは明らかであるから、右解雇手続の瑕疵は、本件解雇の効力を左右するものではない。なお、右申請人らは、解雇の効力が生じるまでの間被申請人に対し賃金請求権を有すると認められるが、その保全の必要については疎明がない。

六 結論

以上の次第で、申請人らの本件仮処分申請はいずれも失当であるから却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙(一)、(二)省略)

(別紙(三))

申請人は、

1 組合が昭和三四年に私鉄総連に加盟以来今日までそのほとんどの期間執行委員長として、支部責任者として職務を行つてきたところ、昭和三八年五月には二〇〇万円にも及ぶ使途不明金を作り、組合と組合員に多くの混乱と不信感を与え、そのため三年間の権利停止処分が行われた。

2 従つて財政処理について十分反省し、その取扱いについては相当以上に配慮を行い組合財政の在り方の信頼感恢復に努力しなければならない立場にありながら、労金からの借入れ制度を私物化し、大屋敬二、沼倉章治、赤石登、舘治吉などの名儀を使つて借入れを行つた。

3 そのうえ決められている限度と支払能力をはるかにこえた多額の借入を行つたため、その返済に困難を来し、組合および組合員にふたたび多くの混乱と不信感を与えた。

4 この生活資金の借入れは一口三〇万円を除いては、その他の組合員とは全く別にすべて組合帳簿に記載する事なく労金と直接契約し、借入れ返済してきた。

5 以上の事については全く計画的にしかも秘密裡に処理し、あくまでそのまゝかくそうとした。

6 組合の代表者として組合業務に専従しながら、その生活費を常に会社から借入れ、会社側から川本は金を借りるからいう事を聞かせやすいとさえ云われる様な人は、組合幹部として許されない行為である。

7 渉外費の支出について仮名を用い不当に支出している。

8 道本部声明書及び支部の経過報告をまつたく事実無根と称して、道本部オルグ責任者高平亀治を告訴し、組合の統制を乱して団結権を侵害し、組織を破壊しようとした。

(別紙(四)、(五)省略)

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